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「すごかったねお姉ちゃん!」
「本当に、来て良かったわ!」
「一緒に見てくれて、ありがとね!」
「いいの、私もすっごく楽しかったから」
魅惑の山脈を下山した二人であったが、それはそれは微笑ましいものであった。
赤々と上気した表情は、まだ奇術師の炎が燻っているからなのだろうか。
普段はあまり激しい感情を表に出す事のないトゥーンですら、年相応の、むしろほんの僅か幼気すら取り戻したかもしれない程に、はしゃいでいた。
はぐれないように繋いだ手が、せわしなく振れているが、そのうちスキップでもするのではないかと思える。
そんな二人に同調するように、少年の小さなお腹が、くるると感動を告げた。
「あ」
「お腹減っちゃった?」
「……うん」
気恥ずかしげに逸らした顔が屋台の方へと向いてしまっているのだから仕方がない。
だから、少女はある提案をした。
「ねえねえ、なんかご飯食べにいこっか」
「え?」
「屋台もいいけど……ちょっと人が多すぎて……最近、出来た美味しいお店があるの、そこでゆっくりしない?」
それを聞き、晴れやかな笑顔で元気に頷こうとした少年だったが、それが徐々に曇ってゆく。
「でも僕、お金…」
「大丈夫!そんなに高いお店じゃないし。なにより……お姉さんはね、お金持ちなのです」
そういって胸を張る少女だが、実際、彼女の懐は、家の暖炉に反比例して充分に暖かい。
なにせ兄は二番隊とは言え、騎士団の副団長であり、彼女は酷い倹約家なのだから、金持ちとは言わずとも、そこらの町娘の小遣いとは格が違う。
見た目通り、健啖家でもない自身と、食べ盛りとは言え、所詮は子供の腹を満たして、食後の紅茶と会話を楽しむ程度、雑作もなかった。
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