ようこそ『かがみや』へ

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「ちょ、違っそんな!!私達そんなんじゃありません!!」 慌てた少女が手をぱたぱた振って否定する。 「おや、そうなのかい? 僕の勘違いだったかな? ……でも、彼の依頼は確か……」 「と、とにかく私達まだそんなんじゃありませんから!!」 店主の言葉を少女がすぐさま遮る。 が 「ふーん、『まだ』ねぇ……」 「あ……」 店主がニヤケて聞き返した言葉に、少女の顔はみるみる赤くなり、そのまま俯いてしまった。 耳まで赤くなって、かなり可愛い事になっている。 それを見る店主のニヤケ面は、とても見れたものではないので、彼女が俯いたのは正解だったかもしれない。 その笑みはどこか、悪戯の成功した少年のようでもあったが、年下の少女をからかって、心底楽しそうにしているこの男は、やはりどこか狂っているのかもしれない。 いや、これはただの変態か。 「ま、冗談はこれくらいにして」 「え」 「そろそろクライアントの名前くらいは聞いておかないとね」 店主が少し真面目な顔で告げる。 そういう彼の手は自分のカップに二杯目を注いでいたが。 「あ、そういえば私達まだお互いの名前も知らなかったんだ……」 つまり彼らは互いについて、まったく知らなかったにも関わらず優雅にお茶してたわけである。 「わ、私ったらまだ名乗りもしないですみません……つい関係ない事ばかり言っちゃって……」 「主に僕のせいだけどね」 この男、自覚はあるようだ。 「とにかくお嬢さんのお名前を聞かせていただこうかな」 店主が柔らかい口調で聞き 「あハイ、私『葉島 里香(ハジマ リカ)』って言います。よろしくお願いします」 少女はそれに明るく答えた。 いつしか薄暗い店内には、紅茶の香りと共に、明るく和やかな雰囲気が漂っていた。
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