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「え、おばさん!?どうしてここに!?」
“奈留ちゃんたら大きくなって~”といって私の頭を撫でている人は、紛れも無く流衣の母親だった。
「私達、またこの近くに住むことになったのよ。だからご挨拶」
おばさんは私の頭から手を離し、笑顔でそう言うと、ソファへ目を向けた。
靴が2足あった。
ということはおばさんの目線の先は――。
流衣。
そこには居づらそうにソファに座っている流衣の姿があった。
転校生の今川流衣が私の記憶の中の今川流衣と一致した瞬間だった。
また視線が絡み合う。
流衣だとわかった今、学校で目が合った時よりも胸が熱くなった。
そんな私の喜びとは反対に、流衣はただ頭を下げただけだった。
本当に忘れてしまっていたのか。
そんな思いに胸を痛めながらも、私はつられるように頭をさげた。
「奈留ちゃん…。ちょっといい?」
流衣の方を見ていた私は、私を呼ぶ声でもう一度おばさんに向き直った。
おばさんの顔からはさっきまでの楽しそうな笑みは消え、悲しそうな笑みが浮かんでいた。
「なんですか?」
中々話し出さないおばさんに痺れを切らして、問いかける。
おばさんは口を開いては声を発する前に閉じる。
さっきからずっとその調子だ。
やっと話す決心がついたのか、少し下を向きがちだった頭を上げ、しっかりと私を見据える。
その真剣な顔に自然と背筋が伸びた。
「実はね」
やっと聞けたおばさんの声は、低く奮えていた。
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