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「流衣、交通事故にあったの。向こうに引っ越してすぐに」
そう言ってまた下を向きがちなおばさんの頭とは対照に、私の頭は驚きでびくともしなかった。
「交通…事故?」
私は無意識に言葉にしていたらしい。
おばさんが“えぇ”と言う声で今のは私の声なのだと理解した。
「そのせいで、その時までの記憶がないの」
「え…?」
記憶が…ない?
それは、私のことも覚えてないということで。
そう理解した私はゆっくりと流衣の方を見た。
流衣はさっきとは違う気まずさから見を守っているのか、膝に肘をつき、手を組みフローリングの床をじっと眺めていた。
「お医者さんは“事故のショックで一時的に記憶を失ってるだけだから、何か思い出のあるものを見たり聞いたりすれば直に思い出すだろう”って」
「何か、思い出したんですか?」
私は聞いた。
私の事を思い出していてほしい。
そんな願いを込めて。
だが、おばさんはゆっくりと首を横に振った。
「流衣ね、毎日のように昔の写真を見てるの。奈留ちゃんと一緒に写ってるものが多いんだけど、まだ奈留ちゃんがどんな子なのか思い出せてないみたい」
「そう、ですか…」
「私もいろいろ話してあげたりしてるんだけど」
私とおばさん、話しに加わっていないがおそらく聞こえてはいるだろうお母さんから気まずい雰囲気が流れ出た。
それを壊したのは流衣だった。
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