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流衣は勢いよくソファから立ち上がった。
「俺、思い出したいんです。写真に写っている楽しそうな自分を見たり、母さんから話しを聞いて、その思いはだんだん強くなりました。俺、ここには記憶を取り戻しに来たんです」
そう言った流衣の目には力強さがあった。
流衣に続きおばさんも口を開く。
「奈留ちゃん。流衣の記憶を取り戻す手伝い、してもらえないかしら?」
私は何も考えずに“はい”と返事をしていた。
いや、考えていないと思っているだけで、無意識のうちに考えていたのかもしれない。
私を思い出してほしい、と。
「ありがとう、奈留ちゃん」
おばさんは私の両手を自分の両手で包み込むように握りしめ、満面の笑みで私を見た。
流衣の顔にも笑みが浮かんでいる。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうかしら」
おばさんは私の手を離し、羽織ってきた上着と鞄を持つ。
流衣も上着を着ようとするが、それはおばさんに止められた。
「流衣はもう少しここにいたら?いいかしら?」
おばさんの問いにはお母さんが“もちろん”と笑顔で答えた。
「じゃあ、私は帰るわね。遅くならないうちに帰ってきなさいね」
おばさんはそう言って玄関の方へ歩いて行った。
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