2.再会

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    “自分の部屋で話してなさい”というお母さんの言葉で、私達は部屋を移動した。 いきなり2人きりとか、緊張するじゃん。 部屋に来てからまだあまり時間は経っていないが、私達は一言も声を発していない。 流衣からしたら私は初対面なわけで、私以上に緊張しているのかもしれない。 これは私から話しかけなくちゃ! そう思うが、なんて声をかけていいのかわからない。 “久しぶり”じゃおかしいし“はじめまして”も変な気がする。 「…奈留?」 考え込んでいた頭に、低い声が響く。 声変わりしたんだなぁ。 さっきも思ったが、昔の流衣では想像できないくらいの低音だ。 まさか、流衣から話しかけてくれるとは。       「…って呼んでもいいかな?」 「へ?」 自分でもかなり間抜けな声だったと思う。 まさかそういう言葉が後に続くとは思いもしなかった。 「だめ?」 「あ、いや、全然いいよ!私も流衣って呼ぶね」 “うん”と答えた流衣はどこか淋しげだった。 「ごめんね。俺、覚えてなくて。でも、絶対思い出すから」 淋しげな表情と力強い感情が混ざり合う。 「どうしてそんなに思い出したいの?」 そんな流衣の顔を見てたら、勝手に言葉が声になっていた。   忘れたといっても幼い頃の記憶だ。 はっきり覚えてない人の方が多いだろう。 「奈留は俺に思い出してほしくないの?奈留のこと」 「そ、そんなことないよ」 顔が熱い。 赤くなっているであろう顔を見られないように下を向く。 思い出してほしくないわけがない。 ずっと流衣を想っていたのだから。 しばらく下を向いていると、微かに笑い声が聞こえる。 不思議に思い顔を上げると、流衣が私から顔を背け笑いを堪えている。 「ちょっと、流衣。何がおかしいのさ」 私がそう言うと、流衣は私の方を向いて 「可愛いなと思って」 と言い、私の頭に手を乗せてぽんぽんと2回叩いた。 さっきより顔が赤くなっているのが自分でもわかる。 「ごめん、からかいすぎたな」 流衣は笑顔でそう言った。 「ほんとだよっ、もう~…」 そう言うと流衣はまた笑った。 「忘れちゃいけない何かがある気がするんだ」 私の顔の赤みがようやくひいてきた頃、ぽつりと流衣は呟いた。 忘れちゃいけない何か。 それが私のことだったらいいな、なんて都合のいい期待を抱いた。    
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