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「あ、奈留。おかえり」
終業式が終わった今、教師待ちの教室はとても賑わっていた。
春休みに出かけよう、そんな会話がそこら中から聞こえる。
そんな中、声をかけてきたのは、中学からの親友、川上沙和(カワカミ サワ)だ。
「また断ったの?」
沙和は少し呆れた雰囲気だ。
「うん。私には流衣(ルイ)が1番だから」
私は沙和が座っている席の後ろに腰を下ろす。
沙和は自然と後ろを振り返った。
「まーた始まった、奈留の流衣くん話。でも小学校の頃から連絡ないんでしょ?もうそろそろ他の人も考えてみたら?」
沙和は机に肘をつき、その手の平の上に顎を乗せた。
「でも、そこまで好きになれる人いないんだもん」
真顔で言い切った私を見て、沙和は軽く溜め息をつく。
「奈留せっかくモテるのに」
「沙和には負ける」
ぱっちりした目。
長いまつげ。
艶のある唇。
すべすべの肌。
元から色素の薄い髪は今は明るい茶色に染まり、軽く巻いてある。
長さはセミロングくらいか。
私もたまに告白に呼び出されるが、沙和には敵わない。
1週間に1、2のペースで呼び出される時期もあった。
「私はいいの。帝がいるから」
彼氏ができるまでは。
にこにこしながら言った沙和には彼氏がいる。
白咲帝(シラサキ ミカド)。
同じ中学で、その頃から仲はよかったが付き合い始めたのは高校1年の秋。
ラブラブな2人を見てると羨ましくなる。
私にもあんな彼氏ができたら。
そんなことを思い、想像してみても思い浮かぶのは決まって流衣。
流衣の存在がどれほど大きいものなのか、改めて実感するだけだ。
沙和とはよく似てると言われる。
沙和には劣るが、大きくてまつげもそこそこ長い目。
髪は沙和同様セミロングだが、明るい茶色の沙和とは対照に、暗い茶色だ。
焦げ茶とも言うのか。
「とりあえず、奈留も周り見なよ?彼氏いらないならいいけどさぁ」
きっと沙和は、私が羨ましそうに2人を見てることわかってるんだ。
でも、わからないんだもん。
人を好きになるということ。
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