1.指輪

2/3
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
    「あ、奈留。おかえり」 終業式が終わった今、教師待ちの教室はとても賑わっていた。 春休みに出かけよう、そんな会話がそこら中から聞こえる。 そんな中、声をかけてきたのは、中学からの親友、川上沙和(カワカミ サワ)だ。 「また断ったの?」 沙和は少し呆れた雰囲気だ。 「うん。私には流衣(ルイ)が1番だから」 私は沙和が座っている席の後ろに腰を下ろす。 沙和は自然と後ろを振り返った。 「まーた始まった、奈留の流衣くん話。でも小学校の頃から連絡ないんでしょ?もうそろそろ他の人も考えてみたら?」 沙和は机に肘をつき、その手の平の上に顎を乗せた。 「でも、そこまで好きになれる人いないんだもん」     真顔で言い切った私を見て、沙和は軽く溜め息をつく。 「奈留せっかくモテるのに」 「沙和には負ける」 ぱっちりした目。 長いまつげ。 艶のある唇。 すべすべの肌。 元から色素の薄い髪は今は明るい茶色に染まり、軽く巻いてある。 長さはセミロングくらいか。 私もたまに告白に呼び出されるが、沙和には敵わない。 1週間に1、2のペースで呼び出される時期もあった。 「私はいいの。帝がいるから」 彼氏ができるまでは。 にこにこしながら言った沙和には彼氏がいる。 白咲帝(シラサキ ミカド)。 同じ中学で、その頃から仲はよかったが付き合い始めたのは高校1年の秋。 ラブラブな2人を見てると羨ましくなる。 私にもあんな彼氏ができたら。 そんなことを思い、想像してみても思い浮かぶのは決まって流衣。 流衣の存在がどれほど大きいものなのか、改めて実感するだけだ。   沙和とはよく似てると言われる。 沙和には劣るが、大きくてまつげもそこそこ長い目。 髪は沙和同様セミロングだが、明るい茶色の沙和とは対照に、暗い茶色だ。 焦げ茶とも言うのか。 「とりあえず、奈留も周り見なよ?彼氏いらないならいいけどさぁ」 きっと沙和は、私が羨ましそうに2人を見てることわかってるんだ。 でも、わからないんだもん。 人を好きになるということ。    
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!