チェリーブロッサム②

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「お久し振りですね、教授」 「はははっ、私はもうとっくに教授ではないよ」 気味悪そうにグラスを差し出す紅姫に礼を言って受け取った教授は、纏う空気も人柄も、以前とは全く異なっていた。 社会的な地位は以前の方が格段に高い。 けれど、人としての器が、今の方が遥かに大きいのだ。 信念を貫き誰に対しても胸を張れる生き方をしている教授が、眩しいとすら感じる。 「ユーイやシュリに連絡が取れたでしょうに、ブラックホールを抜けてくるなんて随分無茶をしましたね」 「私はちゃんと召喚獣を理解する事が出来たのか……。絆が独り善がりではないか、確かめてみたくてな。だが、ブラックホールが怖くて、10年かかってやっとだ」 「絆はしっかり結ばれていたみたいですね。容易ではなかった筈ですが、何をしました?」 「一緒にクエストをやっていたんだ。君達に課した苦しみを知らなくてはいけないと思って」 蒼湖は笑ったが、一行は瞠目し、息を飲んだ。 バハムートがよく行方不明になっていた理由は、教授がクエストに連れて行っていたからだと一行は納得したが。 医師達がよく知らないクエストは、蒼湖達や鷹央達にとっては身を以て体験した地獄に等しい世界。 一行とは違い、教授は現実世界とプログラムの世界を自由に行き来は出来ただろうが、困難は変わらなかった筈だ。 建物内のクエストにバハムートが入れなかった事を考えれば何度死んだか知れず、よくぞ1人で頑張ったと褒めてやりたい。 そんな思いにかられたらしい紅姫が、自分の年齢の倍以上も年上の教授の頭を撫でた。 「失礼だろう! 馬鹿かお前は!」 空かさず頭をはたかれ、皆に笑われる。 10年経っても変わらないものが、ここにはまだ残っていた。
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