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「貴様はやはり侮れんな、蒼湖」
一行が聞く態勢を整えると、大吟醸の熱燗をチビリとやった教授が蒼湖にニヤリと笑いかける。
「酒が入っていなければ、皆も気付いたと思いますよ」
それは無い、と全員が思う。
しかし教授は、納得した様に「そうか」と頷き、ポケットに手を入れた。
グーで引き出され、ゆっくりと開かれた手の上にはクリスタル。
勿論、モーが持つ<バハムートの心>ではない。
だが、その輝きの色合いは、バハムートのものとよく似ていた。
「貴様の様に数日という訳にはいかなかったよ。作成するのに1年かかった」
紅姫は<数日>を<即日>に訂正したかったが、その前に帝王が「それが普通じゃよ」と人好きのする笑顔で応えてしまったので、言い損ねてしまう。
「バハムートですか……。名前は?」
「ジェミニという」
今度は蒼湖が頷き、何かを読み取った様に唇の端を引き上げた。
「おい! 2人だけで通じ合ってんじゃねー! 俺達にもちゃんと説明しやがれ! バハムートが行方不明になる理由は何だ!」
酔っ払いの紅姫がスペアリブの骨を投げた。
空かさず銀河が拾いに行き、「拾い食いは駄目!」と紫允が怒る。
教授は笑い、猪口の酒を飲み干すと、漸く口が滑らかになった。
「バハムートが居なくなっていたのは、恐らく私が毎日語りかけていたからではないかと思う」
そう言ってバハムートを見上げた教授。
見詰め返す、黄色の瞳はとても優しげだ。
時空を隔てているのに、心は通い合ったのだなと、その光景を目にした一行は納得した。
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