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現代───。
「……なぁ蒼湖。人って変われるんだな」
「ふっ、変われない人が殆どだけどな。変われる人は稀だ」
「そーかぁ?」
「そうだ」
花見からの帰り道。
肩を並べて歩く蒼湖と紅姫は、目を見張る教授の変化を語り合う事から始まり、右へ左へと蛇行する会話を楽しんでいた。
「忘れ物が当たり前だった奴が忘れ物をしなくなった、なんてレベルの話をしているんじゃないぞ?」
「それも変わった内だろーけど、まぁ違うわな」
「大体、そんなに簡単に変われるなら<人格>だの<気性>だのなんてものは否定されてしまうだろう? 考えてもみろ。生まれ落ちたばかりのマッサラな赤ん坊にですら既に性格が備わっているんだぞ? 同じ環境で同じ親に同じ様に育てられても、子供は等しくは育たない。その違いは持ち得た遺伝子レベルの話に及ばないと結論が出ないだろうな。生まれつきのものに成長過程の環境や経験なんかが加わって強固に形成されていくんだ。人はそうそうは変わらない。だから<人格>や<気性>なんて言葉があって、固定の認識になる」
「言われてみれば、確かにな」
「変わるには、自覚と努力が必要だからな。生まれつきのものを捩じ伏せて、押さえ付ける必要もある。それを負担や不満に思わず、自然に受け入れられる様にならないと<変わった>とは言えない。でないと、単に無理をしているだけだ。一旦自分を否定して構築し直すんだ、容易じゃない」
「じゃあ教授はスゲー頑張ったんじゃねーか」
「そうだな、と言いたい所だが。教授は変わったんじゃないぞ」
キョトンとする紅姫に、蒼湖は意味深に笑いかけた。
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