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5月に変わったばかりの夜は、まだ肌寒い。
蒼湖と紅姫は、急速に酔いが覚めていくのを感じていた。
そんな蒼湖の頭に、10年前に抱いてそのままにしていた疑問がフッと浮かぶ。
「なぁ紅姫」
「あ?」
「戦争の時……。俺が実体だと、いつ気付いた?」
「随分懐かしい話をすんなぁ。一昔も前の話じゃねーか」
「気になったのに、聞くのを忘れていた」
「何だそりゃ。忘れてたなら大して気にしちゃいねーっつー事じゃねーか」
「でもない。ふとした時に、こうして頭に思い浮かぶからな」
「ふーん……」
それきり止まった会話。
お互い前を向き、ブラブラと歩く深夜の住宅街。
夜のしじまを破るのは、ヤケに響く2人の靴音だけだ。
やがて紅姫が立ち止まると、2歩余計に進んだ蒼湖も足を止め、振り向いた。
首を傾け口を開きかけた蒼湖の頬に手を伸ばした紅姫が、大分薄くなって目立たなくなった、でも消えない目元の傷痕を、スイッと親指で撫でる。
それは、教授が放ったミサイルから帝王を守った時に負った、傷の痕。
「無茶したよな……お前は。・・・・俺は、ハッキリと気付いたんじゃねぇよ。けど、胸騒ぎがしてた。ナイツオブラウンド戦の時、強い抵抗と、不安を感じた。お前を行かせちゃいけねーって……スゲー思った。死んで、目覚めたらお前は控室に居なくて、やっぱりなって」
当時を思い出したのか、紅姫の目は潤んでいた。
本来の紅姫なら、ナイツオブラウンド戦は蒼湖と共に行っただろう。
だがあの時。
紅姫の直感が蒼湖を引き留めたのだ。
そしてそれは、間違いではなかった。
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