雨の日の秘密

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香山先生は、じ、と私を睨みつけたまま、静かに口を開いた。 「教頭先生。私、用事を思い出しましたので、先に職員室に行っておいて頂けますか。」 「分かりました。」 「すみません。失礼します。」 香山先生はかなりイライラした様子だったが、教頭先生の手前、何とか感情を抑えこむと、足早にその場を去って行った。 ……香山先生…すごく怒ってるみたい……。 突然不機嫌になった香山先生に、私があっけに取られていると、教頭先生は「しまった」という顔をして言った。 「あー、すっかり忘れてました。」 「…え…」 「香山先生の前でこの話をするのは、もう止めておきましょう。」 「あ、はい…」 「香山先生は、あまり面白く思ってないみたいですからね。」 「…そう、みたいですね。」 教頭先生と2人になってしまい、私がまた緊張してカチカチになっていると、その緊張をほぐすかのように、教頭先生はにっこりと微笑みを浮かべて言った。 「佐伯さん。」 「は、はいっ。」 少し改まった口調で名前を呼ばれ、私も姿勢を正して返事をする。 「好きなものを、好き、という事は、時にはとても勇気がいる場合があります。」 「?」 「けれども、はっきりと好きだと認めてしまえば、人はもっとそれを好きになれる。」 「はあ…」 ………教頭先生…話が、見えません。 *
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