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先生はキャスターを動かして、椅子ごと私を自分の正面に移動させた。
軽く開かれた先生の両足の間に私の膝が入り込むと、
潤いのある綺麗な瞳が、私の瞳の奥を見透かすように見つめてくる。
「佐伯。何か隠してるだろ。」
「……」
「言えよ。」
催促するように、先生は自分の膝を、コツンと私にぶつけてくる。
「教頭先生に、俺のことで何か言われた?」
「……」
「だから、学校で俺のこと避けてるの?」
「…教頭先生には、何も言われてません。さっき話したこと以外は…」
「だったら…誰に、何を言われたんだよ。」
「……」
「何で、俺に隠すんだよ。何でも話せ、て言ってんのに…」
『…でも滝沢先生、この事は佐伯さん達に言わないでくれ、て。』
『たぶん佐伯さん達に、気を使わせたくないのね。』
香山先生の言葉が、頭に蘇る。
「…先生だって、」
私は俯きかけた顔を、くっ、と上に向けると、反論の言葉を先生にぶつけた。
「先生だって、私に隠してるじゃないですか。私…どんな事でも、話して欲しいのに…」
*
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