雨の日の秘密

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先生は私の頭に手を当てたまま、目線を合わせて言った。 「…で?香山先生に、何を言われたんだよ。」 「…教頭先生が、滝沢先生が私と奈央を車で送っていくことを、よく思ってない、て…他の生徒に誤解を招くといけないから、て…」 「うん。」 「…それから…教頭先生はすごく力を持ってる人だから、この事で滝沢先生が教頭先生に悪い印象をもたれてしまうと、滝沢先生の立場が悪くなるかもしれない、て…」 「…え…」 「先生、ごめんなさい。私、何も考えずに堂々と助手席に座ったりして…。 先生の立場が悪くなるなんて、考えもしなくて…ただ、一緒に居れるのが嬉しくて…」 しゅん、として謝る私に、滝沢先生はクスリと笑う。 「香山先生、何か勘違いしてるみたいだな。 確かに教頭先生に、他の生徒の誤解を招くといけないから、気をつけるように言われたけど…もう送って行くな、とは言われてないよ。」 「え…」 「もしも他の生徒に色々言われたら、佐伯や神崎が傷つくから、誤解されないように気をつけてやれ、て言われただけ。」 「…ほんと、に?」 「うん。それに俺、教師の中ではまだ新米の方だし…立場がどうとか、気にするような位置に居ないけど…教頭先生には、結構気に入られてると思うから。」 「そう、なんですか?」 「ん。俺だけじゃないよ。佐伯も、な。」 「え…私、も?」 「佐伯が沖田総司が好きだって話したら、機会があったら色々話してみたいって…あ、そうだ…」 滝沢先生は、一冊の本を手渡す。 「これ、教頭先生から。佐伯が興味があるなら、借りてもいいってさ。」 「……」 『土方歳三~鬼の副長の素顔~』 教頭先生が、これを私、に…。 *
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