雨の日の秘密

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「香山先生の父親が、学校経営をされていることは、ご存知ですよね。」 「はい。私学の中でも名門校の、あの高校ですよね。昨日聞いて、驚きました。」 「彼はその高校に、あなたを引き抜きたいと考えています。」 「えっ?」 「ただの引き抜きではないですよ。 もしも、この引き抜きに応じた場合、もちろん教師としての仕事もありますが、それ以外にも学校経営についても学んでもらう事になると思います。」 「それは…」 「そうです。つまり、香山先生の結婚相手として、将来の後継者として、あなたを迎え入れたいと言ってるんです。」 (…なっ…) 声が出てしまいそうになり、私は慌てて両手で口を塞いだ。 「驚きましたか?」 「はい。あまりにも唐突なお話で…」 「分かります。まったく彼は昔から、突拍子もない事を言い出して周りを驚かせる。」 教頭先生が、昔を思い出したのか、ふっと笑みをこぼす。 「しかし、彼が決める事はいつも上手くいく。 経営についても、人を見る目も長けているようでね。」 「いえ、私はそんな…」 「香山先生の父親が滝沢先生と食事をしたいと言った、一番の理由はね…滝沢先生が香山先生になびかないからなんですよ。」 「え…それは、どういう…」 「香山先生は、なかなか美人だし、今までも言い寄ってくる男はいっぱいいたらしいんですよ。」 「はあ。」 「それなのに滝沢先生は、香山先生の方が好意を持っているのに、相手にしようとしない。」 「……」 「一度見てみたかったらしいんですよ。娘になびかない男が、どんな男なのか。」 「……」 *
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