雨の日の秘密

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「ところが会って話をしてみて、彼はあなたのことをすっかり気に入ってしまった。 あなたは、香山先生の父親が学校経営をしていると聞いても、態度が変わらない。 私学の教師は給料もいいですし、みんな多少はすり寄ってくるらしいんですよ。」 「…そういうもんですか…」 「そういう、自分をしっかりと持った真っ直ぐなところ、 それに、歴史についての熱意、 そういうところも全部含めて、香山先生の父親に気に入られたみたいですよ。」 「いや…恐縮です。」 少し戸惑ったような声で、滝沢先生が返事を返す。 「香山先生の父親に、滝沢先生の女性関係を聞かれました。 つまり、今、付き合っていたり将来を誓い合っている相手がいるかどうか、です。」 「……」 「そこまで知らない、と答えておきました。プライベートな事を、勝手に話すのはどうかと思いましたので。」 「…ありがとうございます。」 「けれど、今度会った時はきっと、香山先生の父親からこの話が出ると思います。 その時まで、じっくり考えてみて下さい。」 「考える?」 「そうです。今、だけでなく、5年後10年後の将来も視野に入れて考えて下さい。 香山先生の父親も、何も今すぐにあなたを引き抜こうとしてるわけじゃない。」 教頭先生は一度言葉を区切ると、ふう、と息を吐いて諭すような穏やかな声で言った。 「滝沢先生は、大人の男性だ。 だから香山先生の父親も、それなりに女性関係があるのは当然の事と理解している。 ただ、将来引き抜きの話を受ける気があるのなら、それまでに身辺を綺麗にしておかなければならない。」 (……) 教頭先生の言葉が、ズキンと胸に突き刺さる。 ……身辺を綺麗に…つまり私との関係を清算しろ、て言ってるんだよね……。 *
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