雨の日の秘密

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「誤解しないで下さい。 私は、この話を受ける事を滝沢先生に勧めているのではありません。」 「……」 「これは、滝沢先生の将来を左右する話です。 だから他人の私が、勧めることも断るように言うことも出来ない。 ただ、簡単に結論を出せるような話ではないと思ったので、香山先生の父親に言われるより先に、滝沢先生に話しておいた方がいいと思いまして…」 「お心遣い、ありがとうございます。」 「すぐに答えが出るような話ではないでしょうから、ゆっくり考えてみて下さい。」 教頭先生が、ギイと音を立ててキャスター付きの椅子から立ち上がると、 「教頭先生。」 滝沢先生が、教頭先生を呼び止めた。 「…もしも今度、香山先生のお父さんに私の女性関係を聞かれたら、言っても構いませんよ。」 「…何て、答えておけばいいですか?」 「そのまま話してしまって、構いません。 …将来のことを考えられるくらいの関係の相手がいる、と…。」 (!) 「あ、名前を出されたら、困りますが…」 滝沢先生の言葉を聞いて、教頭先生はクックッと笑う。 「やっぱり滝沢先生は、いいですね。男らしくて、潔い。 余計に香山先生の父親に、気に入られてしまうかもしれませんね。」 「え…いや…そんな事は…」 「分かりました。今度聞かれたら、そう伝えておきます。」 教頭先生はそう言うと、声を潜めて言った。 「滝沢先生にそこまで言わせるなんて、佐伯さんはいったいどういう女性なんでしょうね。」 (……すごく平凡な女ですけど……。) 「佐伯さんは今、私にとって、土方歳三の次に興味のある人物です。」 (!!) 一瞬、呼吸が止まりそうになる。 (ひ、土方歳三の次!? ……き、教頭先生…私、そんな、大した人間では……) *
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