体育祭

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佐伯は転びさえしなかったものの、そこで少し失速してしまい、 結局カーブを曲がり終えた直線で抜かされて、2位でバトンを渡した。 しゅんとして肩を落とした佐伯の後ろ姿を見ていると、思わず笑みが零れてしまう。 ……あーあ。あんなに落ち込んじゃって……。 可愛いやつ。 ひいき目で見てしまっているせいか、素直すぎる佐伯の反応が、たまらなく可愛く思えてくる。 にやける顔を隠すように、片手で口元を覆ったところで、 「何、見てるんですか?」 ふいに背後から、声をかけられた。 声だけで相手が誰か分かった俺は、振り向きもせずに前を向いたまま答える。 「リレーの練習です。盛り上がってるな、と思って。」 「あー、ですね。」 英語教師の米倉は、そう相槌を打って俺の隣りに立つと、 同じ様に窓枠に手をかけて、それぞれ自分のチームの走者に向かって、大声を出して応援する生徒達を眺めた。 米倉は俺と同い年ということもあり、学校内では親しい仲だが、 けじめとして職員室では、お互い先生付きで名前を呼び合い、他の先生の前では敬語で話すようにしていた。
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