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「…あのね、米倉。いい加減に…」
ジロ、とさっきよりも強く睨みつけると、鐘が鳴って授業の終わりを知らせる。
「残念。続きは、また今度な。」
米倉はポンと俺の背中を叩くと、自分の席に戻って行った。
俺は、もう1度窓の外に目を向けた。
佐伯のチームは、結局2位のままで終わったようだった。
* * *
その日の放課後。
体育祭の実行委員会の集まりが始まる10分前に、俺は職員室を出た。
体育教師以外にも、毎年何人かは実行委員会のメンバーに駆り出され、当日の設営やら進行やらを任される。
今年は俺も、そのメンバーの1人に選ばれていた。
体育委員会をしきっている教師が受け持つ、1年生の教室を使うことになっているため、そちらに向かって歩いていると、
階段をトントンと降りてきた足音が、ピタリと止まった。
「あ…滝沢先生…」
見上げると、俺に気づいた佐伯が階段の真ん中ぐらいまで降りたところで、立ち止まっていた。
俺と目が合うと佐伯は、ほんのりと頬を赤く染めて、嬉しそうな顔を見せる。
佐伯はそのまま、トントンと急いで階段を降りてくると、隣りに立って俺を見上げた。
「偶然ですね。どこに行くんですか?」
「今から、体育祭の実行委員会の集まりがあって…」
「え…」
佐伯のクルンとした長い睫毛が、パチパチと瞬かれる。
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