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* * *
放課後、副顧問をしているテニス部に顔を出すと俺は、真っ先に佐伯の姿を探した。
………あれ?
いないな………。
全体の様子を見回しつつ、テニスコートの中にその姿を探していると、
「滝沢先生。」
佐伯と同じくテニス部のマネージャーの神崎が、俺の方に駆け寄ってきた。
佐伯と仲のいい神崎は、俺と佐伯の関係を知っている唯一の生徒だ。
神崎は俺の横に来ると、小声で佐伯のいる場所を伝えてきた。
「美和子なら、部室にいますよ。ラケットの予備があったら持ってきて欲しいって頼まれて…」
「…そう…」
「ロッカーの上に、ケースに入れておいてあるんですけど、重たいんですよね、あれ。」
「……」
「…脚立があるから届くとは思うんですけど、ケースを抱えて脚立を降りる時、気をつけないと…私、足を踏み外して落ちそうになったことが…」
「……ちょっと…見てくる……」
「お願いしまーす。あ、5分くらい戻ってこなくてもいいですよ。
美和子も、少しでも先生と2人っきりになりたいだろうし…」
神崎が、ニヤッと意味ありげな顔をして言う。
「ばーか。余計な気を、使わなくていいんだよ。」
俺は、神崎のおでこを軽く指ではじいた。
「い、痛っ…」
「……でも、まあ、お言葉に甘えて…10分後には戻るから。
聞かれたら、適当に誤魔化しといて。」
「え、ちょっと…適当にって…しかも10分て言ってないですよ。」
「じゃ、そういうことで。よろしく。」
文句のありそうな神崎を置き去りにして、俺はテニスコートから部室へと向かった。
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