体育祭

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「どうした?」 俺は、ドアから手を離して、体ごと佐伯の方に向き直った。 正面に向かい合って立ち視線を合わせると、佐伯の頬があっという間にピンク色に染まる。 佐伯が恥ずかしがるのが分かっていて、俺はわざと軽く屈むようにして佐伯の顔を覗き込んだ。 「ちゃんと言ってくれないと、分からない。」 「…っ…あの…」 クルンとした睫毛が、照れを隠すように何度も瞬かれたあと、佐伯がちょっと甘えるように言った。 「…もう…行っちゃうんですか…」 「え…」 「……あと、もう少し…一緒に居たいです……」 「……」 予想以上に破壊力のある言葉に、俺の理性が大きく揺さぶられる。 神崎には、話の流れでああ言ったものの、本当はラケットを取るのを手伝ったら、すぐに戻るつもりだった。 やっぱ、俺、先生だし。 部活の途中にそういうことするのは、控えた方がいいよな、て理性も働いてたんだけど……。 ……そんな可愛いこと、言われちゃったらさ、 このまま……戻れるわけないだろ。 俺は、持っていたラケットを床に置くと、後ろ手にドアの鍵をガチャリと閉めた。
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