体育祭

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「……せんせ…んっ………」 突然のキスに、佐伯の呼吸が乱れていく。 深く、深く口づけた後、俺はゆっくりと唇を離した。 ふにゃり、と力が抜けてしまった佐伯の腰を支えながら、ぎゅっと抱き締めると、トクトクと速くなっている佐伯の鼓動が、直に響いてくる。 「……ね…先生……」 ぴったりとくっついたまま、佐伯が甘えるように言う。 「……今日…一緒に帰れませんか? もうすぐ、体育祭の実行委員の集まりとか準備で、色々忙しくなるでしょ。だから……」 「あー……悪い…今日この後、職員会議なんだ。」 「……あ……だったら…仕方ないですね……」 俺は少し体を離して、佐伯の顔を覗き込んだ。 すんなりと引き下がった言葉とは裏腹に、その瞳には明らかに、失望の色が読み取れる。 「何かあった?」 「え…」 「一緒に帰りたいなんて、お前からめったに言わないから。」 ゆらり、と瞬間、瞳を揺らした後、佐伯は恥ずかしそうに俯いた。 「…ごめんなさい…急に我が儘言ったりして…」 「いや、謝ることじゃないけど…」 「…何でもないんです。ただ…」 「うん。」 「……もっと一緒に、居たくなっちゃっただけ……」 「……」 ………だから、そういう可愛いこと言われちゃうと、さ………。 愛おしい気持ちを言葉で表す代わりに、俺はもう一度、包み込むように佐伯を抱き締めた。
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