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* * *
部活を終えた生徒達が、校門へ向かってぞろぞろと歩いて行く。
――そろそろ、始まるな。
指導にあたっている教師も、部活を終えて戻ってくるので、職員会議が始まるのも間もなくだ。
そう考えながら、下校する生徒を眺めていると、仲良さそうに笑い合いながら帰る、2年生カップルの姿が目に入った。
その2人を微笑ましく思いながらも、今日一緒に帰りたいと言った、佐伯の誘いを断ったのを思い出し、チクリと胸が痛む。
………やっぱり、
我慢させてるんだよな、色々と。
会いたい時に会って、傍にいて、同じ時間を共有して……。
付き合ってる相手がいれば、誰もがするすごく当たり前の事なのに。
―――佐伯には、それができない。
けれども、佐伯はその事で不満を口にした事なんてないし、
俺の立場を気にしてか、めったに自分から、一緒に帰りたいなんて言ってこない。
……その佐伯が、珍しく学校で甘えてきたりして……、
本当は、何か話したいことがあったかもしれないな……。
今日の夜、電話してみようかなと考えていると、神崎と並んで歩く佐伯の姿を見つけた。
さっき一緒に帰るのを断った手前、1人じゃない事にホッとしていると、自転車に乗ったサッカー部の村松が、後ろから神崎に声をかけてくる。
少し会話を交わした後、神崎と村松は佐伯に手を振って、自転車を漕いで行ってしまった。
「……」
……そうだった。神崎と村松は、付き合ってるんだっけ……。
という事は、佐伯はああやって、毎日1人で……。
今更ながら、俺は、佐伯に寂しい思いをさせている事を、思い知る。
華奢な佐伯の背中が、いつもより頼りなさげに見えて、じっと見つめていると、
「佐伯」
佐伯の名前を呼ぶ男子生徒の声が、遠くから聞こえてきた。
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