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名前を呼ばれて、佐伯は立ち止まってクルリと振り返った。
声をかけてきたのは、佐伯と同じクラスの青山だった。
青山は、佐伯のクラスの男子の体育祭実行委員だ。
2人は立ち止まったまま、何か話している。
その場所は通路の真ん中なので、他の生徒達は2人を避けるようにして横を通り過ぎて行く。
邪魔になっている事に気付いた青山が、佐伯の腕を引っ張って、通路の端っこに寄るように促した。
腕を引っ張られたはずみで、佐伯はよろけて、青山の腕におでこをぶつけてしまった。
佐伯と青山は、お互いちょっと照れながら、「ごめんね。」と言い合っている
俺は無意識に、2人から視線をずらした。
…………別に、妬いてないし。
視線を再び2人に戻すと、どうやら一緒に帰る事になったらしく、佐伯と青山は下校する生徒の列に混じりながら、2人並んで帰って行った。
「……」
その後ろ姿を眺めながら、俺は青山について知ってる事を思い返していた。
青山は……確か、陸上部だったよな。
スポーツマンらしくて、チャラチャラしてないし、ちょっとシャイなところはあるけれど、発言なんかはしっかりしてて、男らしい。
授業態度も真面目だし、世界史の成績も悪くない。
――それから…確か後輩と付き合ってるんだっけ…。
青山なら、佐伯を狙ってちょっかいかけたりしないだろうと、ホッとしていると、
「あっ、え、あれ?」
背後から突然現れた米倉が、俺の横を素通りすると、びたっと窓ガラスに貼りつくようにして外を覗き込んだ。
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