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―――愛おしむように。
佐伯の柔らかな髪を優しく撫でてから、周りに聞こえないくらいの声で小さく囁く。
「なーに、言ってんだよ。」
「…だって…」
まだ少し唇を尖らせたまま、佐伯は逸らした瞳を俺の方に向けた。
「…先生、私とは…2人で撮ってくれたことないのに…」
「…え…写真なら…」
…2人で撮ったこと、あるだろ?クリスマスに…。
軽く覗き込むようにして目だけでそう伝えると、そんな俺の心を読み取った佐伯が、更に言葉を重ねてきた。
「…学校では、ないです…」
そうだったかな?と思い返してると、
「……私も…先生と一緒の思い出が欲しい…一緒に高校生活を過ごしたっていう…だから、実行委員にだって……」
「え…」
「あ…」
佐伯はカアッと真っ赤になると、慌てたようにクルリと背を向けて、俺から離れていってしまった。
「滝沢先生、これ当日の進行表です。競技の順番とおおよその時間が書いてあるんですけど…」
「…ああ。」
他の実行委員から受け取った進行表を眺めながら、俺はさっきの佐伯の言葉の意味を考えていた。
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