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す、と立ち上がった俺は、黙ったまま佐伯から顔を背けた。
それは……ほんの少しの後ろめたさがあったから、だ。
……体育祭の練習中に、何、考えてんだ、俺は……。
片手をおでこに当てて自分を戒めていると、佐伯の無垢な瞳が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?先生。」
「え…」
「…頭、痛いの?」
「……」
純粋に俺を心配する佐伯に、チクリと胸が痛む。
「大丈夫。何でもないよ。」
「…ほんとに?」
「ん。ちょっと色々考えてただけ。」
「…もしかして、作戦を、ですか?」
「え?」
「Aチームの実行委員の男の子が言ってたから。滝沢先生はAチームが勝つために、二人三脚の順番とか色々考えてくれてるって…」
「…まあね。そんな大したことじゃないけど…」
「…ね、先生…」
「ん?」
「……先生と私がペアなのも…勝つための作戦?」
本当はそうじゃないことくらい分かっているだろうに、イタズラっぽい顔で尋ねる佐伯が可愛くて、俺は思わず、ふ、と笑みを零した。
「…そうだよ。二人三脚はお互いの呼吸を合わせることが大事だからな。
俺と佐伯なら、息もぴったりだろ?」
「はい…」
俺の言葉を聞いて、佐伯はくすぐったそうに微笑んだ。
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