体育祭

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1年ちょっと前の佐伯との事を思い出し、俺は懐かしくなる。 「今は恋愛なんて考えられない、て言うならそれでいいと思うよ。 『…また泣かせたりしたらどうしよう…』とか、そんな余計な事考える余裕なんてないくらい、好きな相手ができるまでは、さ。」 「……」 俺の言葉を噛み締めるように聞いていた青山は、どこか吹っ切れたような顔で俺を見て言った。 「…何か、少しスッキリしました。」 「そうか。」 「俺、このままでいいんですよね。」 青山は、ふう、と小さく息を吐くと、爽やかな笑顔を俺に向ける。 「滝沢先生に話してよかったです。ありがとうございました。」 「…いや…また何かあったら、いつでも言えよ。」 「はいっ。」 「……」 ………素直って言うか、何ていうか、 ほんと珍しいよな、今どき。 「先生、もうすぐ俺らの番ですよ。」 「ああ…」 ……おまけに、ちょっと話聞いてやっただけの俺に、あんなに懐いちゃって……。 ………ほんと、可愛いヤツ。 俺が女だったら、絶対青山みたいな男を好きになるけどな……。 「……」 ……女だったら、の話だけど……。 なぜかちょっと照れてしまいながら、俺はアンカーの目印となるたすきをかけ直して、Aチームの選手の走りを見守っていた。
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