体育祭

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そして、体育祭当日がやってきた。 二人三脚の種目の時間になり、予行練習どおりのペアになって列に並ぶ。 俺と佐伯は練習の時と同じく、真ん中くらいの順番だ。 2人の足首を固定する紐を結び終えた俺は、ひざまずいたままの姿勢で顔だけを上に向けて、空を見上げた。 ほとんど雲のない晴天といった青空が、広がっている。 「だいぶ暑くなってきたな。佐伯、紐は緩くない?」 下から佐伯の顔を見上げると、おでこにふんわりとした感触の物が触れる。 「…せんせ…汗…」 そっと俺の汗を拭ってくれる佐伯のハンドタオルからは、甘い柔軟剤の香りがふわっと漂ってきた。 「…ありがとう」 「いえ…」 恥ずかしそうな表情を浮かべながら、 「紐、ちょうどいいです。」 と答えた佐伯の顔は、緊張からか少し強張ってるように見える。 「……もしかして、緊張してる?」 「はい…。私…先生の足を、引っ張っちゃいそうで…」 「転んだらどうしよう、とか思ってんの?」 「はい…」 立ち上がった俺は、少し力の入っている佐伯の肩に、そっと手を置いた。 ぴくっと、佐伯が跳ねるように反応する。 少し屈むようにして顔を近づけた俺は、佐伯だけに聞こえるように小さな声で囁いた。 「そんな余計な心配しなくて、いいって。」 「え…」 「もしもお前が転びそうになったら、ちゃんとフォローしてやるから。な?」 「…先生…」 「だからもっとリラックスして、頑張ろうな。」 「はいっ。」 少し緊張が溶けたのか、にっこりと微笑んでみせる佐伯の頭に手を置いて、ポンポンと撫でてやったその時、 カシャ、とシャッターを切る音がした。
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