体育祭

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今、行われている競技が終わったら、消えかけた白線のラインを引き直すことになっている。 それを待って、実行委員数人と一緒に待機していると、すすす、と佐伯が、さり気なく俺の傍に寄ってきた。 佐伯は真面目な顔をして、内緒話でもするように小さく声を潜めて言った。 (大丈夫?先生。) 「え?」 (…ライン引き、私が代わりにやっておきますから、早くトイレに行ってきて下さい。) 「は?」 (だって、お腹が痛いんでしょ?早くしないと、リレーに間に合わなくなりますよ。) 「……」 ……何を言い出すかと思えば……。 ……あー、そうか。佐伯は、さっき俺が胃の辺りをさすってんのを見てたんだな。 それで、俺がお腹が痛いかと勘違いして……。 ぶっ、と吹き出しそうになるのをこらえて、俺も同じ様に声を潜めて佐伯に返事を返す。 (…佐伯。) (はい。) (俺、今、トイレに用事ない。) (…え…) (お腹を壊してるわけでもないし、生理現象も起きてない。) 俺の言葉を聞いて自分の勘違いに気づいた佐伯は、ぼっ、と火がついたように赤くなった。 「ご、ごめんなさいっ、私…てっきり…」 「てっきり、何?」 「いえ…」
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