体育祭

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所在なさげに、モジ、とする佐伯に俺は、もう一度声を潜めて話した。 (ありがとう。心配してくれたんだよな。) (…先生…さっきお腹の辺、さすってたから…) (だけど…ちょっと助かった。) (え…) (いや、何でもない。佐伯は、自分の持ち場に戻っていいよ。) (はい。) パタパタと走り去っていく後ろ姿を見送ると、俺は軽く両腕を回した。 佐伯のおかしな勘違いのおかげで、いつの間にかプレッシャーも吹き飛んで、俺の胃の痛みはすっかり消えてくれていた。 * * * リレーは、二人三脚同様、混戦となった。 途中、何度も1位と2位が入れ替わり、その度にわあっ、という声援があがる。 俺は、隣りに並んで立つ青山に話しかけた。 「接戦、だな。」 「そうですね。」 「何か、お前…余裕だな。緊張したりしないの?」 「少しは緊張してますよ。けど、今更どうこう出来るわけじゃないし…」 青山は今走っている走者に向けていた視線を、俺の方に向けると、白い歯を見せて言った。 「俺は、ベストを尽くすだけですから。」 「……」 ……カッコいいな、お前……。 「惚れてまうやろーー」という、どこかのお笑いタレントのネタが頭に浮かんでくる。 ……まあ確かに、ここまできたら、やるしかないもんな。 足首を軽くほぐして準備運動を始めた時、俺は青山が足首にサポーターをはめているのに気づいた。
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