体育祭

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驚いて振り返ると、さっきまで懸命に俺を追いかけていた青山が、地面に座り込んでいる。 そしてその足元には、いったいどこから紛れ込んできたのだろうか。 「ミャー」と申し訳なさそうな顔で鳴きながら青山を見上げる、小さな子猫の姿があった。 どうやら青山は、突然コースに飛び出してきた子猫を避けようとして、足を滑らせてしまったようだ。 このまま走ってゴールしてしまえば、Aチームの勝利となる。 けれども、元々青山が足を痛めているのを知っていた俺は、どうしても気になってクルリと向きを変えてコースを逆走すると、青山に話しかけた。 「大丈夫か?立てるか?」 「はい。」 青山は立ち上がろとして、「っ…」と顔をしかめる。 子猫を避けようとして滑って転んだ時に、更に足を捻ってしまったようだ。 青山は、悔しそうに顔を歪めて俺を見上げて言った。 「先生、俺に構わずゴールしちゃって下さい。」 「アクシンデントがあったんだ。この競技のレースは無効だろ。」 俺は青山に手を貸しながら、もう片方の手で子猫を抱き上げた。 「進路妨害だぞ、お前。」 「ミ」とか細く鳴いた後、子猫は俺の指をペロリと舐めた。 その罪のない姿に、俺と青山は苦笑する。 「肩貸してやるから、ゴールまで歩けるか?」 「え、でもレースは無効なんじゃ…」 「無効でも、ゴールだけはしようぜ。 最後までゴールすることが出場の条件、て言っただろ?」 「…先生…」 俺は青山に肩を貸しながら、子猫を片手に抱きかかえてゴールへと歩いて行った。
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