体育祭

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* * * 青山の痛めた足は大したことなく、湿布を貼っておく程度の処置をするだけで済んだ。 体育祭は無事に終わり、実行委員の最後の仕事の後片付けをする。 みんなと片付けようとはするものの、思うように動けずに申し訳なさそうな顔をしている青山を見つけた俺は、 近づいてわざと、ジロリと睨んで言った。 「お前はまたっ…無理するな、て言っただろ。」 「…すみません…」 「でもまあ、大した事なくて良かったな。」 ふっ、と小さく笑ってそう言うと、青山は少しだけ笑い返した後、悔しそうな顔をする。 「だけど…ちょっとショックだったな。まさか抜かれるとは思いませんでした。」 「けど、あのまま最後まで走ってたら、どうなってたか分からなかったな。俺の体力的に…」 青山と話し込んでいると、カシャッ、とシャッターを切る音がした。 「今日のヒーロー2人の写真、頂きましたっ。」 見ると、さっき俺と佐伯のツーショット写真を撮ったカメラ班の生徒が、またもやカメラを向けている。 「何だよ、ヒーローって。」 「そうだよ。滝沢先生はともかく、俺は…」 「いや、青山も滝沢先生も、今日のヒーローだよ。プロ野球なら、お立ち台のヒーローインタビュー、決定。」 いつの間にか、他の実行委員の生徒達も話に入ってくる。 「リレーの最後、2人のおかげでメチャメチャ盛り上がったよ。 ずっと接戦だったのに、ついに滝沢先生が青山を抜いて順位が入れ替わって…、 それだけでも充分盛り上がってたのに、あんな感動的なラストが待ち受けていようとは…」 「転んだ理由が子猫を避けようとしたから、だなんて…青山くんて、優しいんだね。」 「きっとあの子猫が、今日お前の家に、恩返しに来るぞ。」 「やだー、鶴じゃなくて『猫の恩返し』てこと?」 ふざけながらも青山に温かく接する実行委員の生徒達を見ながら、じわっと心が温かくなる。 誰か1人くらいは青山を責めるやつがいるかもしれない、と思っていたけれど、どうやらその心配はなさそうだ。 体育祭の準備を通して、実行委員の生徒達が"仲間"になっていたことを、俺は嬉しく感じていた。
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