体育祭

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「滝沢先生と青山先輩、すっごくカッコ良かったですっ。」 感動覚めやらぬ、といった感じで、女子生徒達が騒ぎ始めた。 「ラストに2人でゴールするとこなんて、もう感動して涙が出ちゃいましたっ。」 「うんうん。ほら…あの映画みたいだったよね。ディズニーの…」 「カーズじゃない?赤いレーシングカーのマックイーンが主人公の…」 「あー、それそれっ。」 「……ごめん。俺、観た事ないから、言ってる意味、よく分からない……」 「えっ、観てないんですか。どうしてっ…」 「さっきのリレーの時の先生みたいに、ゴール直前でマックイーンが引き返すんです。途中で動かなくなってしまった、今回で引退する先輩レーシングカーのところに…」 「ほら、そこ。滝沢先生と喋ってばっかりいないで、手を動かして下さいよ。」 「はーい。」 「…すみません。」 実行委員のベテランの女性教師に注意されて、生徒達も俺も話をやめて、片付けの作業に集中した。 * * * 小さなダンボール箱の中では、無邪気な顔で子猫が眠っている。 片付けを終えてダンボール箱を抱えた俺は、荷物を取りに社会科準備室に向かった。 階段を上って社会科準備室の前まで来ると、佐伯が廊下に立って窓の外を眺めている。 「お疲れ。」 声をかけると、佐伯は振り向いて、ふわっと柔らかく微笑んだ。 「お疲れ様です。」 夕方の太陽の光りが反射して、佐伯の髪はいつもよりオレンジがかった色をして、キラキラと光っている。 眩しいくらいのその姿にドキッとしながら、俺は平静を装って言った。
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