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「よく分かったね、俺がここに来る事。」
「先に職員室へ寄ったんです。そしたら米倉先生が、滝沢先生はこっちだろう、て教えてくれました。」
「そっか。ちょっと待っただろ。」
片手でダンボール箱を抱えながら、ガチャ、とカギを開けて社会科準備室の中に入る。
締め切っていたせいか、部屋の中は少し蒸し暑く感じた。
俺は机の上に、ダンボールをそっと降ろして言った。
「青山から、コイツを引き取ってきたんだ。」
「え、あ…さっきの子猫ですか?」
「ああ。いったん、俺が預かることになったから。」
「先生が?」
「ん。飼いたい、て言ってくれたヤツは何人かいるんだけど、親とか家族の承諾もなしに、いきなり連れて帰る訳にいかないからさ。」
「あ…そうですよね。」
「だから飼い主がはっきり決まるまで、2、3日俺が預かる事になったんだよ。」
ガサ、と箱の中から音がする。
佐伯と一緒に箱の中を覗くと、さっきまで眠っていた子猫が、俺達を見上げて「ミ」と鳴いた。
「可愛いですね、この子。」
佐伯が箱の中に手を伸ばして子猫を撫でると、子猫は佐伯の手にすりすりと顔をこすりつけて甘えるような仕草をする。
「…でも…いいな…」
子猫を撫でながら、佐伯が独り言のように、ぼそっと呟いた。
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