体育祭

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「お…」 「あ…」 2人とも何も言葉を発することなく、しばらく液晶画面に表示された写真を見つめる。 ―――佐伯の頭を撫でながら、ものすごく大切なものを愛おしむような表情で佐伯を見下ろす俺と、 少し甘えるような顔つきをしながら、照れた表情で俺を見上げる佐伯。 その姿は教師と生徒ではなく、どう見ても仲の良い恋人同士だった。 少しして、液晶画面が暗くなる。 ボタンを押して画面を明るくしてから、俺はようやく口を開いた。 「…いいな、この写真…」 「…はい…」 「俺達って普段、こんな感じなんだな。」 「…はい…」 どちらからともなく、画面から目を外してお互いに見つめ合う。 触れるだけの軽いキスを交わした後、佐伯は液晶画面に表示された写真を、うっとりとした表情で眺めて言った。 「…私、好きです…この写真…」 「ああ。」 「3枚は欲しいなあ。」 「同じ写真を3枚も、いらないだろ。」 「ううん。だってアルバムに貼るのと、部屋に飾るのと、それからもう1枚は…」 そこで佐伯は、不安そうに俺を見上げた。 「……あの…みんな…彼氏とか好きな人の写真やプリクラを、持ち歩いてるんです。定期入れに入れたり手帳に貼ったりして……」 「あー、そう言えばそういうの、見たことあるな。」 「…私も前から、そうしたいな、て…」 「うん。」 「けど今までは、プライベートの時の写真を誰かに見られたら困ると思って……持ち歩いてなかったんです。」 「……」 「でも…この写真なら体育祭の時の写真だから、いいですよね。もしも誰かに見られちゃっても…」 「……」 「……ダメ?」
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