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―――すぐに言葉が出てこなかった。
教師と生徒という立場上、俺と佐伯は関係を疑われるような事は、お互いに気をつけてきた。
そのために、佐伯に色々我慢させてしまっている事も分かっている。
―――けれども、
ただ、俺と一緒に写った写真を持ち歩くことさえも、躊躇わなければいけない佐伯の気持ちを考えると、
俺は、ぎゅっと胸を締め付けられるような気がして、すぐに言葉が出てこなかったのだ。
返事を返さない俺に、佐伯の瞳に落胆の色が浮かぶ。
佐伯は悲しそうに瞳を揺らした後、わざと強がって明るい口調で言った。
「あ、やっぱり持ち歩くのはマズいですよね。」
「……」
「やっぱり、いいです。ごめんなさい、我が儘言ったりし…」
「ダメなんて、言ってないだろ。」
「…え…」
「もっと早く言えよ。それくらいの事。」
「……それじゃあ…いいの?」
「いいよ。」
途端に、佐伯はパアッと顔を綻ばせる。
「嬉しいっ、ありがとう、せんせ…」
これくらいの事で喜ぶ佐伯が、あまりにもいじらしくて、どうしようもなく可愛くて……。
気付いたら俺は、手を伸ばして、佐伯の顔にそっと触れていた。
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