複雑なオトコゴコロ

4/60
前へ
/388ページ
次へ
夏休み中も滝沢先生と私は、部活で顔を合わせることはあるだろう。 けれども、夏休みにプライベートで会う約束は1つも交わされていない。 先生も部活があるし、忙しいのは分かってる。 ―――でも……本音を言えば……、 長い夏休みの、ほんの1日だけでもいいから……先生を独り占めしたい。 いつもみたいに"先生と生徒として"じゃなくて、普通の恋人同士みたいに、先生と今年の夏を過ごすことができたらな……。 ぼんやりと考え込んでいると、亜紀ちゃんが私のほっぺを、むにゅ、と摘まんて言った。 「……美和子ちゃん、今、何考えてたの?」 「え……」 「顔がトローンてしてるよ。好きな人のこと、考えてたでしょ。」 「違っ……」 「やーん、美和子ちゃん、顔真っ赤。かわいー。」 「ねーねー、美和子ちゃんの好きな人って、どんな人?」 「もしかして……付き合ってるの?」 「えっと……」 ……どうしよう。 付き合ってるって言ったら、絶対相手は誰か聞かれるよね……。 まさか「相手は滝沢先生です。」と言うわけにもいかないし……何て言えば……。 言葉に詰まっていると、誰かが廊下の窓をコン、と叩く。 3人揃って顔を向けると、教室の前を通りかかった滝沢先生が、廊下から私達に声をかけてきた。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5283人が本棚に入れています
本棚に追加