複雑なオトコゴコロ

28/60
前へ
/388ページ
次へ
テニスコートは、じりじりとした太陽の熱をはね返してくる。 朝に感じた体の違和感は、ますますひどくなっていた。 ずっと我慢していたけれど、さっきから何度も立ちくらみがする。 ボールが入ったカゴを持ち上げただけで足元をふらつかせる私を見て、奈央が心配そうに言った。 「美和子、休んでていいよ。」 「ありがと。でも大丈夫。もう少しでお昼休みだし……」 そう言いかけた時、私の手からボールの入ったカゴが奪われる。 「大丈夫じゃないだろ。」 横を向くと、いつの間にか隣りに滝沢先生が立っていた。 先生は心配そうに、私の顔を覗き込んでくる。 「気分悪いんだろ?顔色、悪い。」 す、とボールの入ったカゴを持っていない方の手を伸ばして、先生は私のおでこに触れた。 「……熱はないみたいだな……」 先生の手は、そのままスルスルと下りてきて、私の頬をそっと包み込む。 先生は、訝しげに眉をひそめた。 「……この前と触り心地が違う……」 「……」 「……佐伯、お前、ちょっと痩せた?」 「……は、はい。少しですけど……」 「うわあ。美和子、やったねっ。」 奈央が興奮気味に、声を荒げた。 「10日で見た目にも効果が表れるなんて、すごいよ。 ね、ね、私にもそのダイエット方法教えて?トマトダイエットだっけ?」 「あ、うん……」 「ダイエット?佐伯、お前ダイエットなんてしてるの?」 奈央の言葉を聞いて、先生は突然不機嫌な口調に変わった。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5283人が本棚に入れています
本棚に追加