複雑なオトコゴコロ

31/60
前へ
/388ページ
次へ
何となく気まずい雰囲気のまま、先生と私は一言も話さずに駐車場に着いた。 いつものように助手席のドアに手を伸ばそうとすると、先生は後部座席のドアを開ける。 「乗って。」 「え……」 「ほら、早く。」 「……」 ……いつもなら隣りに座らせてくれるのに、どうして……。 半泣きになりながら、潤んだ瞳で訴えかけるように見上げると、不機嫌そうだった先生の口元がわずかに緩む。 「そんな目で、見るなよ。」 「……だって……」 「後ろの方が、ゆったり座れるだろ。」 「あ……」 怒ったような態度をしていても、先生は私のことを心配してくれているのだ。 そのことが分かり、先生の優しさに胸の奥が熱くなってくる。 「……背もたれ、このくらいの角度でいい?もっと倒したいなら……」 後部座席の背もたれを調整してくれる先生に、私は素直な気持ちを伝えた。 「……せんせ……」 「何?」 「……心配かけて……ごめんなさい……」 「……」 先生は後部座席に潜り込ませていた身体を外に出すと、黙ったまま私の頭をクシャッと撫でてくれた。 その手つきがあまりにも優しくて、私は泣きそうになる。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5283人が本棚に入れています
本棚に追加