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"とっておき"かあ。
私は、ゼリーを食べる先生の横顔に向かって尋ねた。
「……ね、先生?」
「何?」
私の呼びかけに、先生も顔をこっちに向けてくれる。
「先生の"とっておき"は何ですか?食欲がなくてもこれだけは食べられる、ていう物ってありますか?」
「俺の"とっておき"の物?んー……何かな…………」
「もしも先生が体調を崩して食欲が無くなった時、先生の"とっておき"が分かってれば困らないでしょ?だから……」
「……」
先生は食べ終わったゼリーをローテーブルの上に置くと、ニヤリと私の顔を覗き込んで言った。
「……そういうのは、俺と一緒に住むようになれば自然に分かるんじゃない?」
「えっ、あのっ……」
先生の言葉に動揺して赤くなる私の反応を楽しむように、先生はクスリと笑う。
「冗談だよ。俺と佐伯が一緒に暮らすようになるのなんて、まだずっと先の話だもんな……」
「っ……」
「そうだな……"とっておき"の物か……何だろうな……」
「……」
先生の口から何気なく発せられた言葉に、私の心臓がドクンと敏感に反応した。
苦しいくらいの胸のドキドキに、思わず手を胸に当てる。
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