複雑なオトコゴコロ

50/60
前へ
/388ページ
次へ
更衣室を出てテニスコートの前を通ると、 サッカー部の練習を終えた村松くんが、滝沢先生と話をしている姿が見える。 村松くんは奈央に気づくと、ブンブンと手を振ってきた。 「2人とも、お疲れっ。」 「え……あれ?」 村松くんを見て、奈央は不思議そうに首を傾げた。 「村松くん、何で待ってるの? 今日は美和子と水着を買いに行くから、一緒に帰れないって言ってあったよね?」 「いや、うん、そうなんだけどさ……その……やっぱり俺も一緒に行ったらダメ?」 「え?」 「俺が奈央に似合うビキニをバシッと選んでやるからさ。な?」 「……ビキニ?」 先生が村松くんの言葉に敏感に反応する。 「あ、この2人、今年はビキニに挑戦するらしいですよ。」 「……」 「一緒に行って、村松くんが選ぶの?」 「おうっ。」 ややテンション高めで話す村松くんの隣りで、先生は不機嫌な顔で、じ、と私を見つめる。 「……佐伯もビキニを買うんだ……」 「え、えっと私はまだ、ビキニに決めたわけじゃ……」 「……ふーん……」 「……」 ……う……何か目に見えない圧力が……。 私は先生から逃げるように視線を逸らすと、奈央の方を向いて言った。 「ね……奈央、村松くんと買いに行くなら私はまた今度でいいよ?」 奈央は少し考えて、すぐに首を横に振った。 「ううん、美和子と行く。 ほら、よく彼氏が更衣室の外から頭だけカーテンの中に突っ込んで、彼女の水着を選んでるカップルいるでしょ? 私ああいうの、ちょっと苦手っていうか……」 「…………あれこそ、男のロマンだよな…………」 村松くんは、うっとりと遠くを見つめて言った。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5283人が本棚に入れています
本棚に追加