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しばらく店内で時間を過ごしてから書店を出る。
先生の車は、店の裏の駐車場に停めてあった。
「ちょっと待ってて。」
先生はそう言うと、ピ、とリモコンキーで鍵を開けて後部座席のドアを開けた。
狭苦しそうに体を曲げて、後部座席のシートに買った本を乗せる先生の様子をぼんやりと眺めながら、私は小さくため息を吐いた。
……もう帰っちゃうんだ。もう少し一緒に居たかったな……。
しゅうんとしていると、後部座席のドアがバンと閉められる。
助手席のドアに手をかけて、先生はクルリと私を振り返って言った。
「どうかした?ぼんやりして。」
「あ……いえ……」
ふるふると首を横に振る私を、潤いのある綺麗な瞳がじっと見つめてくる。
先生は少し考えたあと、助手席のドアから手を離して言った。
「今日は、歩いて行こうか。」
「え……」
「確かそこの川沿いの道、佐伯の家の傍の道と繋がってたよな。」
「あ、はい。」
「今日なら風があって涼しいし、たまにはいいだろ?」
「はいっ。」
もしも車で送ってもらったら、家まであっという間に着いてしまう。
少しでも長く先生と居られることが嬉しくて、私は自然と声を弾ませた。
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