雨の日の秘密

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香山先生はコンピューター室の前まで来ると、ピタリと足を止めた。 同じ様に足を止めた私を振り返ると、香山先生は軽く微笑んでみせる。 「ごめんなさいね。こんな所まで来てもらって。でも、ここなら誰も通らないと思って…」 「…いえ…」 「お昼まだよね。すぐに終わるから。」 「…はい…」 香山先生は、す、と横を向くと、しばらく廊下の窓を流れ落ちていく雨の雫を眺める。 そして視線を私に戻すと、ゆっくりと口を開いた。 「あなたと神崎さんて、よく雨の日に滝沢先生の車で送ってもらってるそうね。」 「…はい…滝沢先生が、声をかけてくれて…」 「分かってるわ。あなたは自分から、そんな事言うようなタイプじゃないもの。でも、ね…」 香山先生は、少しためらうような素振りを見せる。 「…本当は生徒に、こんな事話しちゃいけないんだろうけど……滝沢先生、その事で教頭先生に色々言われてるみたい。」 「え…色々って…」 「一部の生徒だけを特別扱いすることを、教頭先生は良く思ってないの。」 「…特別扱いって…送ってもらった事、ですか?」 「ええ。もしも他の生徒に見られて、誤解を招いたりしたら…て心配してらっしゃるの。 いくら雨がひどいからって、家まで送っていくのは、誰が見ても特別扱いでしょ?」 「…教頭先生は、どうして知ってるんですか…私と神崎さんが滝沢先生に送ってもらった事を…」 「さあ…乗せてもらうのを見たんじゃないかしら。」 「でも、家まで送ってもらった事まで知ってるなんて…」 「それは……私が言ったの。」 「…え、」 驚く私と反対に、香山先生は余裕の表情を浮かべている。 *
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