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滝沢先生、そんな事があったなら、話してくれればいいのに。
……やっぱり、子供扱いされてるのかな……。
私だって守られてるばかりじゃなくて、先生のことを守りたいのに…。
でも…香山先生が言ってくれなかったら、私…きっと気付けなかった…。
もう少しで、迷惑をかけてしまうところだった。
もっと、気をつけなくちゃ。
もしも先生と私の関係がバレてしまったら、責められるのも立場が悪くなるのもきっと、滝沢先生なのだから…。
「…ありがとうございます…」
「え?」
唐突にお礼を言う私に、香山先生がクリンとさせた睫毛をパチパチと瞬かせる。
「滝沢先生を困らせてるなんて私、全然思ってなくて…香山先生に教えてもらって、良かったです。」
「……」
「もう少しで、滝沢先生に迷惑かけちゃうとこでした。ありがとうございます。」
「…佐伯さんのために、言ったんじゃないわ。」
香山先生は、何故か悔しそうな顔をして言った。
「滝沢先生のためよ。」
香山先生は、私が手に持っているカフェオレをチラリと一瞥する。
…え…。
その冷ややかな視線に、私はぞくっとする。
「話はそれだけ。佐伯さんなら、私が言いたい事、分かってくれるわよね。」
「はい。」
「良かった。それじゃあ、そろそろ行くわね。滝沢先生が待ってるから。」
「……」
「ごめんなさいね、お昼休みを邪魔しちゃって。」
「いえ…」
香山先生は、最後にもう一度廊下の窓から降りしきる雨を眺める。
「雨、やむといいわね。」
にっこりと微笑んでみせる香山先生の瞳はもう、さっきまでの冷たさをすっかり隠してしまっていた。
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