第三章 最低な男ー後編ー

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"魔法"。 この世にはそのような概念が存在する。 いわゆるところの火を巻き起こしたりするアレである。 かつては神話の世界だけのものと考えられていたのだが、五十年ほど前からそれは徐々に現実のものとして認められるようになりはじめていた。 後天的突然変異。それが一番適切な解釈であろう。 突如として不思議な力、魔力を手にした彼らは魔導師と定義付けられた。 そんな彼らは、身に宿るその不思議な力を用いて、常人には考えられないような特殊な現象を引き起こすことができた。 それこそが、この世で魔法と呼ばれるものの正体。 魔法には、火、水、雷、土、風、森の六属性があり、魔導師はそのうちのどれか一つの力を手にしている。 さらに、それらの属性にはそれぞれの相性があり、得意な属性に対しては効果が倍、苦手な属性に対しては半減、という風な具合になるわけで……。 例えば、水属性の攻撃は火属性をもつ魔導師に対してはその効果が強まり、一方で、火属性の攻撃は水属性をもつ魔導師に対してはその効果が弱まってしてしまう。 以上のような塩梅(あんばい)で、各属性にはある程度の相関関係が存在するのだ。 宝器との差異は、属性と制限。 宝器は魔力こそ込められた武器ではあるが、どの属性も宿していない。 つまり、相性の良い相手が存在しない反面、相性の悪い相手も存在しないということ。 それを利用してか、魔導師のなかでは、苦手な属性の魔導師対策として、何かしらの宝器を保持しているケースがまま見られる。 が、それでも不利は基本的に変わらない。 なぜか。 宝器は決定打に欠けるからだ。 どの魔導師であろうと一度に込められる魔力の割合は同じ。 宝器の種類にもよって異なるが、術師の持つ魔力の総量の数パーセントまで。 一方の魔法は、自身に与えられた属性以外を扱うことができない代わりに、一度に込められる魔力の量に制限がない。 魔力の量が増えれば増えるほど効果が強まる。つまり魔力さえあれば大技を放ち放題というわけで……。 魔力量の大きい魔導師同士の戦闘になれば役立つのは俄然こちら。 魔力の消費量は膨れるが、ハデな戦闘向きである。 メインウェポンは魔法。同じように魔力を媒介とする宝器はサブウェポン。 それがおおむねの魔導師の戦い方だ。 しかし、そんな人間離れした能力をもつ魔導師にも弱点はある。 それは、空腹だ──。 .
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