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「おいおい勘弁してくれ。俺はいたって正常だ。誓って薬なんかに手を出していねえ」
「はっ、そいつはどうだか。この国にいるおかげで、こちとらジャンキーの妄言なんか聞き飽きてんだ。信用できっかよ」
先程から目の前に出されていた水槽をついに手に取って見てみた。
何かからくりがあるのか。
本当に麻薬に手を出していないと仮定すれば、これになんらかの秘密があるはずだ。
そう思い、ぐるりと回して一通り確認してみる。
すると、ちょうど底の部分に目を向けたときだった。
なぜか、自分の首にかけているシルバークロスに異様な熱を感じたのだ。
「なっ……」
と、同時に、するりと手から水槽を滑り落としてしまう。
カシャーン、と高い音ともにガラスが砕け散っていく。
「おいクソ野郎! なにやってくれてんだ!」
「え、あ、いや。違うんだ、これには──」
「大損じゃねえか、クソったれ! せっかく、首長の旦那に売りつける予定だったのによ!」
「は?」
戸惑いのあと理解が一瞬遅れてやってくる。そこでようやく納得がいった。
ああ、そうか。そういうことなのか。
前にこの街の首長が何かの花を欲しいとぼやいていたことを思い出す。
俺はそのとき軽く聞き流していただけだったのだが、それがこの花だったのだ。
そしてこの男はそれを手に入れた。
点と点がつながる。
きれいごとをさんざん抜かしていたわりに、結局は転売目的だったのだ。
確かに麻薬に手を出しているわけではないが、それでもこの国の人間にふさわしい、立派なろくでなしであることには違いない。
金儲けのことしか考えられない汚い人間だ。
だが、それが改めてわかるとどこか安心した。
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