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「責任取りな、クソガキ」
「おいおい……。なに言ってんだ。蓮の花のような綺麗な心をお持ちなんだろ? だったら水に流すべきじゃねえか。頼むぜ、まったく」
「知るか。そんな昔のことはとっくに忘れちまったよ。男は前だけ見てりゃあ十分だからな」
「なら水槽割っちまったことも昔の話だから是非とも忘れてくれ」
「俺にとっちゃあそいつは昔の話じゃねえ。現在進行形の話だ。だからレオ、もう一度言うぜ。責任取りな」
首長へ転売する際の値段。責任とは、それを支払うことを意味している。
だが、いくらで売るつもりなのかわからない以上、結局のところその額はジェイコブの言い値で決まることになる。
当の本人はというと、商機と見てか、ふっかけてくる気満々なわけで、腕を組んだまま渋い顔を作り続けていた。
「いくらだ」
「七万。エールで」
「高い。四万」
「六万五千」
「五万。あとであんたの店でラムくらい頼んでやるよ」
ジェイコブはそこでようやく表情を緩めた。そして腕組みをほどき、人差し指で俺を指差してくる。
「乗った」
放ったその一言で交渉は成立。俺は大損確定。とことん厄日である。
ちなみに、エールとはウォルタリアの通貨を指している。
わかりやすく身近な所で例を求めれば、十万エール紙幣一枚で末端の役人の給料一カ月分に相当する。
ここまでである程度の予測はつくだろう。情けない話、マリンランドでは通貨を発行していない。
当然と言えば当然。紛争地域であるため、とにかく信用が置けないからだ。
高い確率で、明日になれば紙くず同然となるかもしれない紙幣なんて誰が持とうとするだろうか。
そのためこの街で暮らす者は皆、外国の通貨に頼って生活しているわけである。
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