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支払う金額が決まってから、俺はぼんやりと自分の懐事情を考えていた。
自宅に戻れば、潤沢とは言えないまでもいくらか蓄えはあるはずだ。
しかし、それでももちろん貧乏であることに変わりはない。
だからこそ、俺としては今回のような散財は非常に心苦しいわけで……。
酒と煙草を少しの間止めてみるか、と間違った考えがついつい頭をよぎってしまう。
無論、俺はそれをすぐに否定した。
駄目だ。それだけは絶対に認められない。無理矢理にでも費用を捻出してやる。
生きがいのない人生なんて人生じゃないはずだ。
眉間のしわを揉みながら思わず小さなため息を漏らしてしまう。
「あとで店に金を持って行ってやる。それでいいか?」
「ああ構わねえ」
短いやり取りのあと俺は両手をポケットに突っ込んだ。
「んじゃあ、そろそろ行くわ」
「おう。そういえばどこに行くつもりだったんだ?」
「サウスの近くまでだよ。距離はあるがあそこは煙草が安いからな。足運ぶくらいわけねえ。それと……。今しがた一つ気になることもできちまったしな」
「なんだ?」
「面倒事だよ」
ジェイコブは怪訝な顔をして眉をひそめる。
なんとなく察しがついているようだ。
その上で関わり合いを持ちたくないからか、深く尋ねてくるような真似はしない。
「お前つくづくついてねえな。同情するぜ。もしかしたら祟られてんのかもな。可哀想に。……しっかしまあ……だからと言って、値引いたりしてやることもねえけどよ」
俺は苦笑した。
そしてその場を後にした。
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