第一章 邂逅

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   *** ウエスト・ブロック。それが俺の暮らしている街の名だ。 文字通りこの国の西側に位置しており、四つあるマリンランドの街の一角でもある。 他の三つの街の名も、例に倣い方角に由来しているわけだが、それぞれの住人は基本的に自分の住んでいる街から出ようとはしない。 理由はある。 街同士が島の領有権を巡り合っているからだ。 いわば国の中にもまた小さな国があるような状態。 各々(おのおの)思惑があり、時折水面下で動いたりもするが、おそらく争いに終止符が打たれることはないだろう、とするのが大方の見解だ。 ちなみにだがこの巡り合い、ノース・ブロックとイースト・ブロックとの争いが一番激しい。 ノース・ブロックは親ウォルタリア派が多く住む街で、一方のイースト・ブロックは親ミハイロフ派が多く住む街である。 この二つの派閥は相変わらずの水と油で、毎日のように飽きもせず抗争を繰り返している。 そして俺は今、ウエスト・ブロックとサウス・ブロックとの境にいた。 もちろん分類としてはウエスト・ブロックに属する場所である。 当初の用事であった煙草はすでに手に入れた。今の目的はこのシルバークロス。 先程、異様な熱を帯びたあとすぐに大きなヒビが入り、今や使い物にならなくなってしまっている。 使い物にならない、とは一体どういうことか。 それはこのクロスが、宝器と呼ばれる特殊な武器の一種であることに起因している。 宝器とは、魔導師という異能の才を持った人間が、その身に宿る不思議な力、魔力を通して扱う武器の総称のこと。 戦闘時のみならず多岐に渡り魔導師をサポートしてくれる。 また、その種類は数百にも及び、効果も千差万別で、魔導師にとってはどれも心強い味方だ。 中でもこのクロスは、周囲の魔力の発生を感知するもので、その効果範囲は半径五十キロメートルにも及ぶ。 対象の位置情報と、熱反応の強弱によって魔力の大きさを所有者に知らせるという性能がある。 .
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