プロローグ

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もし地獄があるのなら、それはここかもしれない。 生き物みたいに激しくうねる炎は、欲するままに何もかも飲み込んでいく。 人も大地も差別なく、見るものすべてが焼かれていく。 幾筋(いくすじ)もの螺旋(らせん)(えが)き、少しの生存も許さないそれは、どうやら世界を赤一色に染め上げるつもりらしい。 業火に焼かれた視界は見るも無惨(むざん)。 火の海とはまさにこういうことを言うのだろう。 けれど、そんな激しく舞う炎の真ん中。 俺は一人、静かにそこに立ち尽くしていた。 下を向けば、黒髪から返り血が自然とポタポタと(したた)り落ちる。 普段は気にもとめない重力が、やけに重たく感じられるのは、少し前の出来事のせい。 正義を掲げているはずなのに、今はこうして無実な人達を殺している真っ最中。 一方的な暴力に、一方的な殺戮(さつりく)。 これでいい。そうだろ? 問いかけたくても、俺の問いに答えてくれる人は誰一人としていない。 残されて、ポツリ。 辺りに充満するのは、血と硝煙と焦げる死体の臭い。 不協和音に似たそれらが、際限なく三者三様に響き合う。 わかっている。 ここは、戦場の最前線。 最低最悪な場所。 そして。 「……クソったれ」 兵器である俺の生きる場所──。 .
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